セレンディピティの逃亡劇 [1]








「もう、君しか愛せない。」



そんな言葉はありきたりだと思う。愛してるも好きだ、も僕には言えなかった。だから「もう、君しか愛せない」なんて絶対に言えない。言いたくても言えない。これも全部、すべてが運命だというのなら僕は神に見放されたとしか考えられないほどだ。彼女のためなら何だってやってやれる。…それすらも、僕には出来ない。そんな自分が悔しくて毎晩、毎日、悔やんでいた。悔やんでも悔やみきれないこの運命を変える事が出来たとしたらどんなのいいのだろう。だけど実際、そんな事は出来るわけがなく、やはり運命に逆らう事など出来ないのか、不可能なのかと嘆く。

好きなのに。

愛しているのに。

だったら言えばいい、そんなに彼女を愛しているならば声に出せばいい。好きなんだから何だって出来るはず。……問われそうで怖い。

「怖い」と思ってしまうのはやはりそれが言えないのが図星だからだろう。



一方、彼女の方はきっとそんな僕の気持ちに気付いていた。すでに知っている。だが、彼女の方からも愛の囁きなど僕に言ってきた事は1度もなかった。ただ、僕を見つめるその瞳が好きだと、抱きしめるその細い腕が愛していると、物語っている。



そう考えると神は僕を見放してはいないのかもしれない。

この極限の中でそうやって彼女の温かい行動を僕は受け止めているし、きっとこれは幸せなんだと思う。たとえ長く続かなくても僕は幸せで……だから、だからこそ悔しい。

それを口で言えたらいいのにと思ってしまうからだ…。



そんな事を思い続けてもうすぐ2年が経とうとしている。

今年は最終学年でホグワーツ行きの列車に乗る事も最後となる。彼女との愛しいあの時間も…今年が最後だ。





だけど、その運命を変える事が出来ると僕は悟った。

この1年間、僕が前々から出来ないと思って悔やんでいたあの行動を起こせばいい。その勇気が今ならある気がしてならない。



だから、

ついに今日という日がやってきた。



寒い冬。寒い風が当たる。そんな風は神が僕を止めようとしているように感じたがそんな事関係ない。もう決めた事だ。あとは実行するのみ。それしか、ない。





「マルフォイ、来たな」



ハグリットはそう言って僕を自分の小屋に招きいれた。中は暖かく、外の寒さとの違いが分かる。そして真ん中にある小さなテーブルにはすでに紅茶が入れてあった。



「彼女は?」

「まだだ。だがもうすぐ来るだろう」



チラッと時計を見ると午前2時ちょっと前だった。

とりあえず僕は椅子に座りハグリットが入れてくれた紅茶を飲みながら彼女を待っている事にした。



これは一種の反抗だ。

この運命に対してか、家に対してか、神に対してか、いずれにせよ全部が答えで僕と彼女はついに行動に出た。



そして数分後、小屋の中にいきなり寒い風が入ってきた。

紅茶を置いて前を見ると寒さのため、頬を赤くして黄色と赤のマフラーをしたハーマイオニー・グレンジャーが僕を見て立っていた。












※連載だー、連載だー……。